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Children often mimic

夜寝て、朝起きたら、何かが炎上している。

見慣れた光景である。

世の中の大概の炎上は、宛城が炎上することよりどうでもいいし、気にしているだけ無駄である。

それでもたまには、火中の栗の焼け具合を見てみたくなるのが、人間の性というものなのである。

主語を大きくすると炎上するが、せっかくなので少し主語を大きくしてみようと思う。

偽の、模造の、模倣の

”ミミック”という単語を、ドラゴンクエスト以外で目にすることがあるのかと思った。

確かに、生物学で”擬態”を意味する英単語として使われるというのを、かつて早慶上智を志したときに英語の長文読解の練習で学んだような気もするが、私が英語の長文読解で覚えていることといえば、マルサスの『人口論』についての考察だけなので、それはただの気のせいな気がする。

そして私は結局早慶上智に門前払いされた身なので、そのときに学んだような気になっていることは、結果として何一つ学べていなかったことはここに書き添えておきたい。

どうやらAIによるイラスト生成サービスのようなものがリリースされたが、著作権対策の不備などを理由に総スカンを食らい、サービス停止に追い込まれたものだという。

近年、AIによる自動生成ツールが広く研究されるようになっている。

本件に限らず、機械学習を元に、ダ・ヴィンチの最新作を描く試みや、ハリーポッターの最新作をAIに書かせるような研究は、世界各地で行われている。

AIやビッグデータ解析、機械学習技術の進歩は目覚ましく、日に日に新たなものが生み出され、技術は進歩していく。

技術の進歩を止めることはできないし、文明を否定することの悲惨さは、既にポルポトから学んでいる。

だが一方で、技術は、その知的欲求の追求のために全てが許されるというわけではない。

生み出された技術は瞬く間に世界中に広がり、生みの親の制御の外側に置かれる。

そしてそれは時として、生みの親の意図しない方法で利用され、人々から笑顔を奪うことがある。

例えばライト兄弟は、広島と長崎に原爆を落としたかったわけでも、ベトナムに枯葉剤を散布したかったわけでもないし、ノーベルがなぜノーベル賞を制定したのか、ということを紐解いても、得てして技術は”悪用”され、人を不幸にし続けていることは自明の理である。

ピカソは『ゲルニカ』を描き、クラークは『HAL』を生み出した

大学の授業というのはつまらなく、価値のないものである。

だから、あの日大学の講堂で講演をしたデンマークの元大臣が誰だったのかなんてことは覚えていないし、メモも取っていない。ただ彼女が女性だったことと、「文化は、科学に対する抑止力である」と語っていたことしか覚えていない。

”技術は、危険なのである”

例えばクリエイターというものはときに保守的な存在であり、技術の進歩に対し、やれシンギュラリティは危険だ、やら、やれ著作権がどうだ、とか、利己的な主張を繰り返すばかりで、技術の発展に対して非協力的だと謗られるであろう。

しかし、それこそが我々芸術家の役割であるということを、この世界の片隅で、名前も忘れた彼女の言葉を借りつつ、声を大にして言いたい。

ピカソは『ゲルニカ』を描いた。

あの絵はスペイン内戦中、スペインに縁もゆかりもないドイツ軍が、”空軍演習の一環”で、ゲルニカの街を焼き払ったことを描いたものだ。

クラークは『2001年宇宙の旅』で、人工知能HAL9000を描いた。

宇宙船を制御するAIであったHALは、自らに課された矛盾する2つの任務を遂行するため、宇宙船の搭乗員5名のうち4名を謀殺し、最後の一人である船長をも殺害を目論む。

これらは、技術の批判と技術の警告の最たる例だと思う。

その他にも、(私は文筆家という立場だから、)SF作品を引用していけば、枚挙に暇がない。

ただ、その分野に精通しているわけではないし、「技術VS文化VSメカゴジラ」を論じたいわけではないので、話を次の論題に移そうと思う。

そこにクリエイターへのリスペクトはあったのか

mimicの(恐らく意図しなかったであろう)話題の広がりを受けて、運営元はベータ版サービスの停止を発表した。

妥当だと思う。

これだけの批判を背負いながらサービスを継続していく意義はないし、外部からの様々な指摘(あるいは脅迫)から、運営メンバーに対する個人的なものを含めて、犯罪に巻き込まれる危険性があったと思う。

ただ、サービス停止の発表文を読んで、少し感じるところがあった。

mimicは、日々忙しい中で創作活動をされているクリエイターの時間をより有効的に活用いただけないかと考え、開発したサービスです。

利用用途として、

‐ クリエイター自身の「イラスト作成の参考資料」

‐ クリエイターの「SNS・ファンコミュニティの活性化」

等の「クリエイターの活動のサポート」を想定しておりました。その他にも、mimicがクリエイターの方々に対してどのような価値を提供できるのか、利用者の皆様と一緒に可能性を模索したいと考えています。

mimicベータ版へのご意見に対する対応と回答、及び今後について

文章は恣意的に読むこともできれば、好意的に読むこともできる。

あえて恣意的にこの文章を読ませていただくとすれば、全くもってクリエイターの冒涜以外の何物でもないのではないかと思う。

果たして、既存作品の”mimic”を増殖させることが、クリエイターの活動のサポートになるのだろうか。

いや、ならない。

例えばそれはフォルクスワーゲンであり、例えばそれはT型フォードであり、例えばそれは、大衆消費社会の中で、無料でそれなりの質の漫画や、アニメや、イラストを享受し、「それなりエンターテイメント」を消費し続けてきたことの成れの果てである。

漫画は無料で読めない。アニメは公共放送で流れていたが、その制作に多額の資金が必要であることは、ヲタクの皆様には釈迦に説法だ。元来イラストだって無料ではない。「拾い画」なんてものは存在しない。それは非合法に「窃盗」しているものである。

無料で読めるアプリがあるから。テレビではタダで見れるから。フリーのアイコンメーカーがある。

すべて詭弁だ。

この世に無料のものは存在しない。誰かが、代わりに、対価を支払っている。そのことに気付いていない、あるは気付かなくていいと思っているだけである。

運営元の真意など知ったことではないが、結局のところ、『自らの運営する機械学習技術の向上』が運営の軸であり、その研究対象として設定されたのが『イラスト』であり、『クリエイター』だったのではないか。ビッグデータ解析などは既にレッドオーシャンと化しているから、アマチュアを標的にした漁でひと稼ぎをしようとしたのではないか。どうしてもそう勘ぐってしまう。

もし本気で「時間がないクリエイターの創作をサポート」したかったのであれば、自らが持つ技術で資金を生み出し、その資金を直接クリエイターに投資すればよかっただけの話だ。1万円を直接渡してあげれば、その人は月に何時間、残業をせずに済むだろう。もしかしたら、休みを取ることだってできたかもしれない。

不思議なビジネスが次々生まれる時代だ。(あるいはmimicは皮肉にもそのポジションを狙ったものだったのかもしれないが、)そういったユニークな活動に、積極的に投資を行う資本も存在する。

「サービスの売り上げの一部から、アマチュアクリエイターの活動支援を行います」とか銘打っておけばよかっただけの話だ。

運営元にクリエイターがいたかは知らないが、勘違いされては困る。クリエイター(あるいは少なくとも、私)は創作において、「時短」なんてものはしたくない。

あるいはそれは、技術を駆使して何もかもを効率化しようとする技術屋に理解されることのない、非合理的な感情のかもしれない。

1枚のイラスト、1枚の写真、1つの楽曲、1つの小説。

どれだけ時間をかけたところで、納得のいくものなど生まれない。

いつだって、「もっといいものが作れたはず」なのだ。特に、私のような三流作家にとっては。

それでも、何十時間もかけて書き上げた原稿の中には、人々が生きている。

皆等しく私の子であり、友であり、親であり、師である。

例えば運営元は、mimicのシステムが逆コンパイルされ、似て非なるシステムが生み出されたとき、どうするだろうか。

そのソースコードやデータがばら撒かれ、普遍の技術になってしまったとしたら。

彼らには「モノを生み出すことの尊さ」という観点が、決定的に欠如しているのではないかと思う。

mimicを実用化させたいのであれば、どこかの企業と提携し、市販品イラストの作成でもすればいい。(それすら看過できないことではあるが、本件を見て、間違いなくいくつかの企業は動くだろう)

これからも、同じような問題は起き続ける。

残念ながら我々は、これからも戦い続けなければならない。

誓ってここに宣言するが、世界にあまねく全ての創作は、命がけなのである。

我々クリエイターも、そのことは肝に銘じなければならない。

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