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さらばオジュウチョウサン ~最後の飛越へ『踏み切って、ジャンプ』~

『踏み切って、ジャンプゥ!』

中央競馬、障害競走の実況でおなじみ、山本直也アナウンサーの代名詞だ。

そもそも競馬に、障害競走があることを知っている人は少ない。

宝塚記念、有馬記念などなど。

『競馬』と呼ばれる大体が、平地(もっと言うと、芝)の競争だ。『用意ドン』でスタートし、トラックを決められた長さ走る。言ってしまえば、運動会の徒競走みたいなものである。

一方で明日、2022年12月24日。

中山大障害という、一風変わったレースが開催される。

オジュウチョウサンという一頭の馬が走り続けてきたのは、『障害競走』という、日の目を浴びることのないレースだった。

ダメ馬の行きつく先 障害競走

競馬の華と言えば、芝2400メートル、日本優駿(ダービー)だ。

3歳の馬しか走ることのできない、いわば競馬会の甲子園。

ダービーを勝利することは競馬界最大の名誉であり、数ある最高格GIレースの中でも、一際注目を浴びるレースだ。

だが、ダービーを走ることができるのは、世代最強の18頭のみ。

それ以外の馬は、以降のレースでの勝利を目指すわけだが、3歳の後半からは、経験や実力のある4歳以上の馬と勝負をしなくてはならない。

そんな中で勝つことのできない馬は、ダート(土)のレースへと転向することが多い。

細かい説明は省くが、強い馬はみんな芝を走ってしまうので、ダートを走る馬は平均的な能力が低い。(もちろん、血統的にダートが得意な馬や、そもそも芝が苦手で、ダートだと能力が活きる馬なんかもいる。)

それでもダメな馬が行きつく先。それが『障害路線』なのだ。

障害競走は、事故が起きやすいレースだ。

直近でも、2020年に実績馬である『シングルマイケル』がレース中に事故死。

非情なビジネスの話をすると、競走馬オーナーの稼ぎ方というのは、馬のレース賞金と、(牡馬の場合)馬が引退した後の種付け料がある。

つまり、馬が引退した後も稼ぐ方法があるわけであって、名馬であればあるほどして、死なれてしまっては困るわけだ。

もちろんファンだって、応援している馬が非業の死を遂げるのは、心地の良いものではない。その馬はもちろん、その子、その孫がターフを駆け抜ける姿を見ることができるのは嬉しいことだ。

だが、馬を育てるのには莫大なお金がかかる。

稼ぐ口がないのであれば、多少リスクを取ってでも、勝てるレースを走らせなければならない。

勿論こんなに単純な話ではないが、障害競走を走る馬は、騎手以外にも、様々なものを背中に乗せて走っている。

だからこそ、全馬のオーナー、関係者、そして障害競走を応援するファンは、レース前、口々に「全馬無事で」という祈りを捧げるのだ。

様々なメディアで紹介される『名馬』の中に、障害路線で活躍した馬は、ほとんどいない。

(ダートで無類の強さを誇り、『砂の女王』と呼ばれた『ホクトベガ』は、障害競走に転向する予定で練習をしていたが、その後平地に戻り、『女王』と呼ばれるまでの活躍を見せることになる。『メジロパーマー』も障害競走での勝利経験があるが、平地競争でのイメージが強い馬だ)

そんな人気のない『ダメ馬』が走るレースだった障害競走だが、時は平成。

1頭の馬が、障害競走の舞台に舞い降りる。

はじめこそパッとしなかったその馬だが、次第に頭角を現すと、以降は無類の強さを見せて、瞬く間に障害競走の世界を制した。

11レース連続勝利。中山グランドジャンプ5連覇。

主戦の石神深一騎手と共に、数々のレースを制してきた。

その馬の名は、『オジュウチョウサン』

馬齢にして、11歳。

比較的高齢の馬が走ることの多い障害競走ではあるが、この年齢まで走り、そして勝ち続けているオジュウチョウサンは、『障害の絶対王者』として君臨している。

その『絶対王者』オジュウチョウサンの現役生活が、この中山大障害で終わる。

明日、オジュウチョウサンは、8年間の時間を共にした石神騎手と、引退レースに挑むことになる。

続いてきた『黄金旅程』

ところで、オジュウチョウサンの父の名は『ステイゴールド』という。

ステイゴールドはその現役キャリアの多くを、「たいしたことない馬」として過ごした馬である。

大きなレースにこそ多数出走したが、2着、3着、2着……

勝ちきれない馬として、評価され続けてきた馬だった。

(ただし、ステイゴールドが走った時代は、それこそ歴史に名を遺す名馬が多く活躍していた時代だった。そういう意味では、実力はあったが、生まれた時代が悪かった馬ともいえる)

そんなステイゴールドの引退レースとなったのは、2001年、香港で行われた『香港ヴァーズ』だ。

『黄金旅程』という名前で出走登録されたステイゴールドは、この引退レースで、悲願のGI初勝利を果たす。(日本の馬による香港ヴァーズ初勝利でもあった)

この劇的な優勝ののち、ステイゴールドは種牡馬として数々の名馬の父となった。

『ドリームジャーニー』、『オルフェーヴル』、『ゴールドシップ』。

ステイゴールドの代名詞たる『黄金旅程』から名前を取った、様々な名馬がターフを駆け抜けた。

だが、そんなステイゴールドも2015年に死去。

彼の子のうち現役なのは、40頭ほど。その全ては競走馬としては高齢な7歳以上で、ステイゴールドの旅路は、また一つの区切りを迎えようとしている。

オジュウチョウサンが歩んできた11年も、まさしくステイゴールドが紡いだ、壮大な旅の一ページだ。

年を経るにつれて、誰もが衰えを理由にオジュウチョウサンの印を薄くした。

だが彼は、そんな下馬評を軽々と飛び越え、何度もレースに勝利してきた。

もう駄目だろう。そんな11歳の老馬が平然と勝ち続ける姿に、ファンは何度も勇気を貰った。

オジュウチョウサンは我々に、「勇気を与えてくれる馬」だ。

そして明日。オジュウチョウサンは、最後の障害と対峙する。

2022年、中山大障害。

『踏み切って、ジャンプゥ!』

その実況にのせて、オジュウチョウサンはきっと、最後の大レースを、難なく飛越してくれるだろう。

ただ一つ、願うことがあるならば。

「全馬無事で」

その一言に尽きる。

2022年12月24日14:45

中山大障害 発走


筆者の予想

◎1オジュウチョウサン
○5ブラゾンダムール
▲8ケンホファヴァルト
△2-7-11

結果

ありがとう、オジュウチョウサン。

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