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樹(tatsuki)

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#だから今シャッターを切った 其の六

これから僕が綴るのは、僕の心の中の、何でもない日常の、ほんの1ページ。

カメラを趣味とする僕が、伝えられること。

“本当は、伝えなくても良いこと。”

“なぜ今シャッターを切ったのか”

読み終えたら、TwitterやInstagramで検索してみてください。

写真が載っています。

余談です。

セミがやっと静かになったと思えば、

俺の出番と言わんばかりに、

スズムシが鳴き始めた。

いや、あれコオロギ?スズムシ?

まぁとにかく、秋が来ましたね。

というより、

夏が、

去ってしまいましたね。

実はあの虫達、暑い時期から鳴いているらしい。

でもその存在に気が付くのは、

セミの雄叫びがやんでから。

涼しくなる前から鳴いておくなんて、

彼らは意識が高い。

先の需要を考えて動けるんだ、

きっと商売に向いているだろう。

そんな点からもやっぱり、

「夏が去った」が合っていると思う。

もっと端的に言うなら「セミが去った」

特に考えた事など無かったけれど、

僕の中にある季節は昔から、

来るというより去っていく。

考えてみれば、新しい季節を迎える事より、

過ぎ去る季節を惜しむ方に時間をかける。

それが良いか悪いかは人それぞれだが、

随分と悲観的な生き方だなと思う。

迎える方に意識を置けば、

もっと未来が楽しみなのに。

カメラを始めてから、季節をより濃く感じる。

秋しか撮れないもの、

冬になったら撮りたいもの。

でも、やっぱり想いを馳せるのは、

夏にしか、撮れなかったもの。

“やらぬ後悔よりやる後悔”

とはよく言うけれど、

僕はそれを、人より強く感じている気がする。

だから、というわけでもないが、

4年半勤めた会社を辞めた。

少し前に、フィルムカメラをあげた人がいる。

誕生日だったわけでもないし、

欲しいとせがまれたわけでもない。

ただなんとなく、

撮ってみてほしいと思った。

あげたカメラは “MINOLTA SR505”

SRシリーズでは1番新しく、

それでも発売は1975年、

47年前のカメラである。

以前まとめ買いした動作未確認カメラ達。

その中に混じった動作品の一台。

覗くとカビや曇りはあるものの、

手入れだけしてあげればすぐに使う事ができた。

だが、問題は見た目。

ファインダー(覗く部分)の外側、

屋根のようになった三角形のところ。

そこに凹みがあった。

売るには形が悪く、

捨てるのも勿体ないので手元にあったもの。

そんな代物なので、

「お試し程度に使って、ハマったら買い替えなね!大事にしなくていいからね!」

と渡したのだが、

後日、共通の友人から、

「超よろこんでた。大事にするって!」

と連絡が来た。

一体彼は何を聞いていたのだろう。

喜んでもらえて、よかった。

先月、彼から連絡が来た。

「2ndフィルムのデータです!」と。

強い日差し、木漏れ日、光と影。

青い空と白い雲、木々の隙間に飛行機。

氷に浸かってキンキンに冷えた胡瓜とビール。

彼が切りとり、色濃く残されたその景色は、

僕の戻りたいそれだった。

瞳が潤んだのは写真のせいか花粉のせいか、

とにかくそれは、眩しかった。

今回はスズムシを見習って、

来月聞いて欲しい曲を、

事前に置いておこうと思う。

少し薄着だったことに気付く

頬に触れる風 季節は老い急ぐ

Novemberland (feat.BUGS) / maco marets

詩は聞き取りづらいですが、

聞き心地の良い曲です。

因みに。

一日中鳴いているのが”コオロギ”

夜だけ鳴くのが”スズムシ”だそうです。

“マツムシ”が出てきたあたりで

キリがないので調べるのを辞めました。

あ、キリギリスって秋?あれは夏か?

あ、いや、もういいです。

さぁ、そろそろ散歩に出かけよう。

眩しい季節に想いを馳せて。

8月某日。

専門学校時代の同級生(と言っても歳下)と、

写真を撮りに出かける約束をした。

卒業後しばらく会っていなかったが、

久々に会うと彼もカメラを持っていた。

古着が好きで、旧車が好きで、

フィルムカメラを持っている。

なんてレトロな奴なんだろう。

23年前のZIPPOを使い、

28年前の車に乗って、

63年前のカメラで撮る僕と、

そりゃ気が合うわけだ。

約束の数日前、予報を見る。

台風、、、。

こんな事ばかりだ。

「台風一過で快晴を祈ろう。」

とメッセージを残して眠りにつく。

まぁ、慣れたもんである。

当日、、、。

快晴、、、!

彼が僕と違うのは、

ちゃんと仕事を続けている事と、

晴れ男の素質を持っている事くらいだろう。

僕には無い。

ボサボサの髪を整えて、

サングラスをかけて車を出す。

財布にスマホ、タバコは持った、

カメラとフィルムも持った。

あとは、、、

あとは、まぁいい。

車を飛ばして、いざ、地元横須賀へ。

道中はいつもより混んでいて、

遅れる連絡を入れる。

時間が勿体ないので昼食は車内で済ませようと

コンビニに寄る。

セブンイレブンのサンドイッチと唐揚げ棒、

そしてフィッシュバーガー。(これ本当うまい)

欠かせないのはタリーズの缶コーヒー。

(これは言わずもがなうまい)

左手に食べ物、右手にハンドル。

コーヒーを飲む時だけ右手を放す。

食べ物を持った左手の甲にハンドルを任せて。

どれだけ喉が渇いていても、

曲がる時にはお預けである。

これもまた、慣れたもんだ。

横須賀について同期を拾い、

フェリー乗り場へ向かう。

目的地は、”猿島”という無人島。

小さい頃、兄が遠足かなにかで行き、

「無人島!?すっげー!!」

となったのを覚えている。

横須賀のフェリー乗り場から、

小さな船に乗ってほんの数分。

そのアクセスの良さから、

無人島とは思えぬほど人が居る。

横須賀の中では割と有名だが、

行くのは初めてだった。

理由は、特に惹かれなかったから。

だが、カメラを手にした今は違う。

炎天下、しばらく列に並んでから、

船に乗って島へと向かう。

ここに来てようやく、

扇子とタオルを忘れたことに気付く。

雲が少なく、青空が海に映る。

キラキラと光る水面は驚くほど青かった。

船はその青を引き裂き、

白い航跡波は、どこまでも後ろへ伸びる。

気持ちが良いほど真っ直ぐと進む船。

船上特有の強風に、整えたはずの髪が踊る。

潮の香りが僕らの周りを、

すごい速さで通り過ぎる。

列に並んでいた時の暑さなど、

今、これを綴るまで忘れていた。

船を降りて橋を渡ると島に到着。

無人島とはいえ流石の観光地で、

思っていた通り人が多い。

集団で移動する人達もいた。

どうやら、ガイドさんと島を回れるらしい。

猿島はよく “天空の城ラピュタ”に

例えられる。

旧日本軍の要塞や弾薬庫、

砲台の跡などが残り、

廃墟となっている。

レンガでできたそれらに

ツタが絡まり木々が生い茂る姿は、

確かにそう見えなくもない。

ガイドを求める人がいるのも納得である。

僕らはガイドに見向きもせず、

暑さを堪えて坂を登った。

カメラを持っているのに、

集団行動なんてとんでもない。

坂の途中、左右に高い壁が現れると、

日陰と風の抜け道になり突然涼しくなる。

周りの誰もが足を止めていた。

壁には何やら文字が彫られているが、

朽ちかけたそれを読むことはできなかった。

そこで、彼がシャッターを切った。

思わず僕もシャッターを切った。

坂が終わると

レンガ造りのトンネルが現れる。

中には鉄柵で囲われた小部屋が幾つもあり、

そこに灯りは一切ない。

通り抜ける風にすら物々しさを感じる。

トンネルを抜けると、

先ほどまで崖のようだった壁も、

レンガ造りに変わる。

絡まるツタにほんの少しだけ陽が射した。

壁を見上げて、

思わずひとつシャッターを切った。

どこまでも続く、木々の間を抜ける。

それなりに整備されているが、

それでも道は悪く、足が取られる。

カップルで来ている人もいた。

底の厚い靴でフラフラと歩く彼女。

眉間に寄ったシワは、

歩きづらい靴で来た自分へか、

手を差し伸べない彼氏へか。

理由が前者であることと、

2人が帰りには笑えていることを祈ってすれ違う。

細い道を抜けると、

木々の隙間から徐々に見えてくる、

ほんの少しの青。

島の端、恐らく終点。

木々の緑と、土の茶色、レンガの赤茶色。

来る時も、海は青かった。

なのに、島を歩き回った後の、

視界いっぱいのその青は、

さっきまでとは違って見えた。

またひとつ、シャッターを切った。

来た道を引き返す。

「猿島は良い所だ!」

とは言い難かったと思う。

でも少なくとも、僕は好きだ。

僕はカメラが好きで、散歩が好きで、

自然が好きだから。

そして久々に会う友人との、

最近の話、懐かしい話、くだらない話。

それらがこの時間を、

より一層、色鮮やかにした。

帰りの船。

行きと同じく青い海の上を、

船が飛沫をあげて駆け抜ける。

行きと違ったのは、太陽。

夕日とまではいかないが、

日が傾いて光が斜めに差し込む。

太陽の光は海の上を滑るように、

どこまでも、きらきらと続いていた。

僕らの立っているすぐ目の前、船の先頭付近。

輝く海に照らされた、後ろ姿。

2人は、

笑っていた。

だから今、シャッターを切った。

最後の1枚は Twitter 又は Instagram にて

#だから今シャッターを切った

で検索してみてください。

それではまた、残したい景色に出会うまで。


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