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樹(tatsuki)

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#だから今シャッターを切った 其の三

これから僕が綴るのは、僕の心の中の、何でもない日常の、ほんの1ページ。

カメラを趣味とする僕が、伝えられること。

“本当は、伝えなくても良いこと。”

“なぜ今シャッターを切ったのか”

読み終えたら、TwitterやInstagramで検索してみてください。

写真が載っています。

さぁ、皆さんお待ちかね、余談のお時間です。

毎回この余談にかなりの時間と文字を割いているが、

理由はふたつ。

ひとつは単純。

たった一度の散歩を3000字にまで広げるには、

感性と文章力が足りていない。

なんともシンプルで情けない理由。

もうひとつは、

あなたとのコミュニケーション。

記事を書いた時、

音楽を作った時、

写真を撮った時、

もちろん、それ単体で評価される物もある。

それでも、つくり手の人となりで

評価が変わるものもある。

どんな人かを知ることで、印象は変わる。

例えば、

「俺が一番上手い、俺は天才だ

 他には真似できないセンスがある」

と歌うラッパーがいて

インタビューでは

「実は毎日ボイトレして、詩の研究をして

 色んな曲を聴いて参考にしてます」

と語ったとする。

あなたは、どう感じますか?

大口叩いてダサいと感じる人も居れば、

努力家だと評価する人も居るだろう。

印象の変わる方向は、良し悪しある。

僕の人となりを伝える事で、

離れていく人もいるかもしれない。

それでも綴るのは、

僕はあなたと仲良くしたいから。

僕と、肩の力を抜いて、

散歩に出かけてほしいから。

よく知らない人とお出かけするのは、

何だか緊張するでしょう?

これは僕なりの距離の詰め方。

長きに渡る自己紹介。

26年も生きてしまった。

こんなところで言えない経験も

言葉では表せない感情も

それなりにあったように思う。

まぁその辺は、

写真から読み取ってください。

何となくでいい。

あなたの感じ方でいい。

良いも悪いも、

好きも嫌いも、

他の誰かが決めることじゃないのだから。

この記事の一番下には、

コメントを書き込むところがあります。

あなたの話も聞かせてください。

良ければ、これを読んだ感想も。

さ、そろそろ散歩に出かけよう。

肩の力を抜いて。

5月。

絶対に撮ると決めていた物があった。

“あった”というのは、”撮らなかった”のだ。

「じゃあ絶対ではないじゃないか」

と言われればそれまでだが、

“絶対なんて絶対ない

 ってそれはもう既に絶対です”

って何だっけこれ。

まぁいいか。

じゃあその撮らなかったのは、

“一体全体どうしたんだい?”

という話なわけだが、

何がなんだかはわかっている。

撮れなかったのだ。

カメラを始めて、今月で1年。

撮ると決めていたのは、

去年と同じ景色。

同じカメラと

同じレンズと

同じフィルムで

同じ景色を。

切り取り方は変わったか、

写す腕は上がったか、

あの時のように楽しめるか、

確かめたかった。

撮れなくなったのは1ヶ月前のこと。

2022年 4月某日

その日はビジネスミーティング、

つまり全社員総出の会議があった。

いつもの仕事は車の整備。

長く伸びた髪は邪魔になるので、

いつもジェルで固めてオールバックにする。

車での通勤なのでラフな私服で出社。

夏場なんてハーフパンツだった事もあるし、

冬はスウェットのまま行く事も。

職場に着いたらつなぎに着替えて

腕を捲って掃除を始める。

そんな毎日。

こういう日は珍しい。

うねった長い髪はおろしたまま。

ネイビーのストライプ、

スリーピースのスーツを羽織って、

ブラウンのネクタイ、革靴、ベルト、時計

を身につける。

革靴は運転しづらい。

職場に着くと、いつもはつなぎの面々が、

シワのないスーツに身を纏っていて、

なんとも不思議な光景だった。

営業マン顔負けの爽やかな後輩、

足を組んでタバコをふかして

今にも猫でも撫で始めそうな先輩、

僕は、売れないホスト呼ばわり。

ダイエットに成功した先輩はスーツを新調、

前より遥かにシュッとしていた。

それなのに、いつもよりどことなく、

先輩の背中は大きく見えた。

会議を終え早々に家に帰り、

すぐに着替えて街へ出る。

カメラ片手に駅まで歩き、

先に来ていた同僚と酒を交わす。

1年の成果がわかった日。

新年度の目標などどうでもよかった。

なんとなく打ち上げのような気持ちで、

浮かれ気分だったのだろう。

その事に気付いたのは翌朝。

確かに僕は昨晩、

カメラ片手に駅まで歩き、

そして、何も持たずに帰ってきた。

カメラを紛失したのだ。

なんとも情けない。

ただひとつの救いは、フィルム。

その日の飲み会で使い切ったフィルムは、

取り出してポケットにしまってあった。

11ヶ月連れ添ったカメラで、

一番最後に撮ったのは、

ピンボケした先輩の姿だった。

去年と同じ景色は、

別のカメラで撮る事もできる。

でも、違うと思った。

初めて買ったカメラとの11ヶ月を、

塗り替えてしまうような気がした。

そんなこんなで撮らなかった景色を、

1年前のままお届けしようと思う。

今回の散歩は、去年の僕と、今の僕と、

これを読むあなたと。


2021年 5月某日

人生で初めて、カメラを買った。

ヤフオクで見つけたフィルムカメラ、

整備済みで完動品の canon AE1。

その無骨なデザインと

黒く光るボディに惹かれた。

いろんなカメラの作例をいくつも見たが、

正直、違いなんてよくわからなかった。

オークション残り数分というところで発見。

50mmの単焦点レンズが真っ直ぐ僕を見つめて、

無骨なボディは僕の心を掴んで離さない。

画面を見たまま静止する。

馬乗りになって押さえ込まれたような気分だった。

画面上ではカウントダウンが始まっていて、

時間がジリジリと追い詰めてくる。

僕は我慢できずにタップした。

数日後の仕事の日。

毎度のごとくバタバタと支度をして家を出ると、

エレベーターの下で佐川のお兄さんに遭遇。

受け取った荷物は重く、

その重みに心躍った。

ミスこそないものの

仕事はまるで手につかなかった。

家へ帰り、早々に開封。

仕事の汚れや疲れを洗い流すのは、

迷うことなく後回しにした。

ネットで調べながら、

人に聞きながら、

初めてのフィルムを装填。

次の休みまで3日。

待てるわけがなかった。

よし!と決めて立ち上がる。

逸る心を抑え切れず、

自分が思うより凄い勢いで立ち上がった。

瞬間、「あっ」とひとり声を出す。

シャッターを、切ってしまった。

人生で初めての写真。

この時は落胆したが、

今思えばなんとも間抜けで、

それがまた僕らしくて良い。

届いたばかりのカメラを片手に、

Tシャツにサンダル、

家の鍵も閉めずに飛び出した。

家を出て左へ1分。

迷わず歩道橋の上に登った。

いつも見上げている信号を見下ろす。

それだけで特別だったが、

ファインダーを覗いた世界は別物だった。

赤と青の共存を待って、

少し緊張気味に、シャッターを切った。

※一応モザイクかけてみましたが

 どう見ても四丁目ですね。

(意識して撮るのが)

初めての写真、ブレブレ。

自分がブレてしまったのか、

シャッター速度が遅かったのか、

もう覚えてない。

今となれば、これはこれで、

良さだと思う。

今なら、ブレずに撮れる。

撮れるが故に、これが撮れない。

技術より大事なものもあるのかもしれない。

技術を身につけたが故に、

今、抑えつけているものもあるかもしれない。

この時、撮りたくて仕方がなかった。

どう写るかなんて二の次だった。

感情をそのまま、想いをそのまま、

乗せてしまっても良いのかもしれない。

“本当は、伝えなくても良いこと” は

僕にとって、

“本当は、忘れてはいけないこと” かもしれない。

この季節の、夜が好きだ。

陽が沈んで、熱が冷めて、優しい風が吹く。

なんとも言えない心地よさ。

歩道橋の上に立ったまま、辺りを見渡す。

遠くで青く光る東横インの文字。

白線の上だけを渡る青年。

街灯の隣で踊る木々。

僕の下に吸い込まれる車。

流れるそれを捉えたくて、

またひとつ、シャッターを切った。

シャッター速度を遅めたのだろう。

明るく綺麗に写り、

流れる車の速さまでわかる。

それなのにブレが一切ない。

1年ぶりにこれを見て、

僕には才能がある気がした。

だが、思い出した。

手すりに置いてとったんだった。

そりゃブレるはずがない。

物事なんてそんなものだ。

これは、

“本当に、伝えなきゃよかった”

歩道橋を降りて少し歩く。

いつも車で通る道。

カメラを持って歩けば、

知らない世界に出逢えた。

人気のない夜道。

そこに浮かび上がる。

街灯に照らされた純白の花。

名前は、まだ知らないし、

知りたいとも特に思っていない。

でも、夜に咲くそれは明媚だった。

思わず立ち止まり、シャッターを切った。

知らない誰かの家に咲く花。

歩道へ飛び出した花。

ありのままに成長したんだ。

ありのままに、自由に。

部屋へ戻るエレベーター。

夢のようだった時間から、

切り離されるような気持ちだった。

ご飯を食べて風呂に入って、

起きたら普通に仕事に行くんだ。

そう思ったら心が締め付けられて、

なぜか今、残そうと思った。

景色でなく、今、この時間を。

切り取って残しておきたいと思った。

今の姿をありのまま

またこんな気持ちになれるかな

拙い技術が物語る

成長の最中 未熟な姿。

だから今、シャッターを切った。

最後の1枚は

#だから今シャッターを切った

で検索してみてください。

それではまた、残したい景色に出会うまで。


連載

コメント

  1. mel より:

    シャッターを切った時の感情や行動が、読ん出る間に自然と、頭の中で映像化できました。どんな気持ちだったのか、知ることが出来て、尚更、写真が愛おしく思えました。

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