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名称未設定1

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

たとえばペット。

初めて飼ったペットを思い出す。

金魚。

当時のわたしはその金魚に名前を付けられなかった。
金魚には「金魚※1」という名称があるし、わたしはそれで大変満足していた。

※1金魚の学名は“Cyprinus auratus”訳:金色の鯉 だった。なぜ「だった。」のかは、後述する。学名とは生物または生物群に対して与えられた名称のうち、生物学で用いられる世界共通の名をいう。ちなみにラテン語。
英語ではゴールドフィッシュ。そのまんま。

母が餌をやるときに「まだらちゃん※2」と勝手に名前を付けて世話をしていたのを覚えている。

※2当時飼っていた金魚はまだら模様と黒のデメキンだった。ちなみに母はデメキンはデメキンと呼んでいた。

小学校の頃ホームセンターで買ったカブトムシも山で捕まえてきたクワガタムシも、ただただ、「カブトムシ」や「クワガタムシ」。
彼らは越冬するまで大切にしてきたが、ある日突然別れがやってきた。

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

所有物の名前

友達と初めて公園で自転車を乗り回したとき、友達はスーパーけんちゃん号と誇らしそうに呼んでいた。
私にとってはどれも等しく「自転車※3」だ。

※3「チャリ」と呼び始めたのは中学生になってから。「チャリンコ」という俗称は 1970 年
以降に登場し全国でひろがる。ちなみに名古屋は「ケッタ」「ケッタマシーン」

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

ニックネーム

初めて買ってもらったゲームはゲームボーイの「ポケモン」。
トレーナーはレッド。
ポケモンたちにもニックネームをつけることをしなかった。

ゲーム内で NPC から交換でもらえるカモネギに「おしょう」と名がついていることに愕然とした。カモネギ※4という名前がついているのに、なんで「おしょう」なんだろうと。憤りさえ覚えた。

※4カモネギは初代ポケットモンスター赤緑については、交換でしか手に入らない貴重な
存在だった。青では「アッカ」、ファイアレッド・リーフグリーンでは「じんすけ」という
ニックネームがついている。

そもそも学生時代、自分にニックネームが表立ってつくことはなかったし、自分からもつけることはなかった。自分の名前に関しては、割と気に入っている。呼びやすいこともあって、みんな下の名前で呼んでくれた。

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

ハンドルネーム

掲示板で初めて固定のハンドルネーム(コテハン)をつけたことはない
名無しとして匿名世界にひたっていた。
その後、なりきりチャットに入り浸った。
既存のキャラクターをなぞることに徹することができたからだ。※5

※5筆者は D.Gray-man 通称「D 灰」のなりチャ板で半年間「ちょめ助」を演じてきた。
「D 灰」の灰は灰色(グレー)から。腐女子たちを中心に漫画タイトルの俗称として愛され
てきた。

既に存在する名を名乗ったことはあれど、自分で名前を考えて付けたこともなく。躊躇することの方が多かった。

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

アカウントネーム

配信サイト※6に興味がわいてからは本名以外の名を名乗るようになった。

※6初めて使用した配信サイトはらじろぐ

Twitter を始めてからは、アカウントを作っては消して作っては消してを楽しんだ。
たくさんの名前を名乗った。

自分の名前でない名前を名乗った時、別人になった気がした。
よく聞く感情ではあったがここまで高揚感があるものだとは思いもしなかった。

わたしが何事かにおける名前・タイトルの類に好奇心を抱くようになったのはそのころからだ。

積極的に自分の作りだしたものや、所有するものにタイトルや名前を付けてみようと思う気持ちになった。

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

有る名前

人間は同じ名前が何人もいる。
歌や絵も同じタイトルがある。

なぜその名を
だれがいつ
どんな理由で付けたのか

今までは丸呑みしていた。だって金魚は金魚だもの。
でも、金魚はもともとフナなのだ。前述にわたしは金魚の学名を“Cyprinus auratus”金色
の鯉 と記したが、金魚の学名と呼ばれるものは実はもう一つ存在している。
Carassius auratus”訳:金のフナ だ。

この記事の査読中に疑義が生じた。編集部で、「金魚の学名は Cyprinus auratus なのかCarassius auratus なのか」という激論が交わされたらしい。
その後、私と編集部で殴り合いの議論が連日連夜行われ、結果的に“Carassius auratus”が学名であるということに落ち着いた。鯉からフナの都落ちが起きた。
なぜそうなったかは、自分で調べてほしい。カールさんドンマイ。

話を戻すと、金魚はちょっと、いやだいぶ派手なフナなのだ。
諸説ある何らかの理由で「金魚」となった。しかも、「諸説」あるのだ。

他人が付けた名前への探求心がふつふつと沸き上がる。
この世にはたくさんの名前があり、名前には由来がある。そしてそれを解明しようとした複数の先人たちが、複数の説を唱えている。
考古学的ロマンさえ感じる。

初めて名前を付けたモノのことを憶えているだろうか
付けた名前を憶えているだろうか
今まで生み出してきた名前を憶えているだろうか

無い名前

「既に存在する名前です。」と言われないように検索をかけながら名前を思考する時間はたのしい。
既存の名前をなぞることに徹していた私が、いつしかその点に情熱を注ぐようになっていた。
どうせなら唯一無二のタイトルをつけたい。

現在私は、おはよう団地を名乗り活動をしている。
おはよう も 団地 もポピュラーな単語だ。

おはよう に至っては日本人であればだれでも目や耳にし、口にする単語であり基本のあ
いさつだ。

しかしその二つが組み合わさった単語を私は聞いたことがなかった。
組み合わせてみる。なかなか語感が良い。
おはよう団地※7はこうして名付けられた。

※7京都新聞に「おはよう団地」というタイトルのついた四コマ漫画が掲載されていたとい
う情報がヒットしたが、掲載時期は1972年~ということだけであり、そのほかの情報は
見つからなかった。

意味のない言葉の組み合わせが成立する場所

一見不合理な、意味の分からない言葉が存在できるとしたら。
それは自分がその言葉を自らの名前として名乗ったとき。
あるいは自分の身の回りに存在するなにかに名称を与えたとき。
この世には、そこでしかありえない単語や単語の組み合わせの名称がたくさんある。
まだ見つかっていない組み合わせもたくさん存在するだろう。

存在可能性のある名前

言葉というものは私たちが生きている間に未使用に終わるものや、存在すら知ることのないものがほとんどだ。日本語が何語あるのか、名称は何種類存在しているのか考えただけで気が遠くなる。

しかも、未だに増え続け、形を変えているというのだから最早宇宙だ。

膨大な言葉を一つ一つ辞書で調べるということも一興ではある。しかし、辞書にも掲載されていない未知の言葉が未知のマッチングを果たしたことで生まれた奇妙奇天烈な名称がこの世には存在している。
現実で当たり前になりつつあるものもあれば、インターネットの深い海に漂流しているものも。
これを読んでいるあなた自身も、もしかしたらなにがしかの唯一無二の名付け親かもしれない。

今までいくつの名称未設定ファイルを作ってきただろうか

今までいくつの名前を知り
今までいくつの名前を語り
今までいくつの名前を捨ててきただろうか

おはよう団地が今回連載するにあたり、「名称未設定」という名称を付けてみた。

これはだれもが一度は意図せず付けてきた名前でもある。

意図しないものから意図をくみ取ろうとしたとき、
そこに一つの意味が生まれる。

本当はそこに意味なんかなくても。


連載 名称未設定

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